民主主義とビジネスの関係

こんにちは。アセアン進出支援協会の阿部です。
4月29日の東京新聞の社説「コロナ時代に考える 民主主義は生き残るか」によれば、2019年時点で民主主義の国と地域は87に減り、非民主主義の国と地域が92と増え、18年ぶりに民主国家の数が非民主国家の国の数を下回ったことを報じました。

▽アセアンの民主主義度

イギリスのエコノミスト誌の調査部門「The Echonomist Intelligence Unit(EIU)」が2020年に発表したレポート「Democracy Index 2020」によれば、日本とアセアン各国の民主化度は次のようにランキングされています。

 

評価
ランキング X/167
日本
8.13
21
フィリピン
6.56
55
マレーシア
7.19
39
ブルネイ
シンガポール
6.03
74
インドネシア
6.30
64
ラオス
1.77
161
カンボジア
3.10
130
ベトナム
2.94
137
タイ
6.04
73
ミャンマー
3.04
135

 

評価概要
10~8点:完全な民主主義
7.9~6点:欠陥がある民主主義
5.9~4点:強権体制との混合型
3.9~0点:強権体制
この表をみて、皆さんはどのように感じるでしょうか。ちなみに最下位の167位は北朝鮮。中国は2.27点で151位、ロシアは3.31点で124位にランクされています。
ミャンマーは2月の政変で次回以降大きく後退することは明らかですが、同じ軍政のタイは6.04点で73位、ベトナムは2.94点で137位。ラオスに至っては1.77点で161位と中国よりも低いランキングになっています。
こうしてみると、共産党の一党独裁か否かといった政治体制の背景が大きく、ビジネスのしやすさという点と民主化度には少なからずギャップがあるように感じます。

▽民主主義とは何か

民主主義とはなんでしょうか。
アメリカ政府の国内出先機関であるAMERICAN CENTAR JAPAN (https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3077/)のWEBサイトに記されている、民主主義政府についての原則をいくつかピックアップしたいと思います。

・市民が直接、もしくは自由選挙で選ばれた代表を通じて、権限を行使し、市民としての義務を遂行する統治形態であること。

・多数決原理の諸原理と、個人および少数派の権利を組み合わせたものを基盤としている。(中略)多数派の意思を尊重する一方で、個人および少数派集団の基本的な権利を熱心に擁護する。

・全権が集中する中央政府を警戒し、政府機能を地方や地域に分散させる。それは、地域レベルの政府・自治体が、市民にとって可能な限り身近で、対応が迅速でなければならないことを理解しているからである。

・すべての市民に対して開かれた、自由で公正な選挙を定期的に実施する。民主主義における選挙は、独裁者や単一政党の隠れみのとなる見せかけの選挙ではなく、国民の支持を競うための真の競争でなければならない。

・民主主義社会は、寛容と協力と譲歩といった価値を何よりも重視する。民主主義国は、全体的な合意に達するには譲歩が必要であること、また合意達成が常に可能だとは限らないことを認識している。マハトマ・ガンジーはこう述べている。「不寛容は、それ自体が暴力の一形態であり、真の民主主義精神の成長にとって障害となる。」
民主主義を代表するアメリカは、民主主義を上記のように定義しています。

▽アセアンにおけるビジネスのしやすさランキング

では、アセアン各国のビジネスのしやすさについてはどのような評価がされているのでしょうか。世界銀行による2018-2019年のビジネスのしやすさランキングは次のようになっています。
2018(X/190)
2019(X/190)
19-18比
再掲:民主化度ランキング
日本
34
39
↘5
21
フィリピン
113
124
↘11
55
マレーシア
24
15
↗9
39
ブルネイ
56
55
↗1
シンガポール
2
2
74
インドネシア
72
73
↘1
64
ラオス
141
154
↘13
161
カンボジア
135
138
↘3
130
ベトナム
68
69
↘1
137
タイ
26
27
↘1
73
ミャンマー
171
171
135
民主化度ランキングでは評価が低いシンガポールは、世界で2番目にビジネスがしやすい国としてランキングされ、また軍政の名残があるタイも一定の評価を得ていることが分かります。ベトナムとフィリピンは、民主化度とビジネスのしやすさの評価では真逆の結果がでています。
「民主化度=ビジネスのしやすさ」は、必ずしもイコールでないことが認識できます。
ビジネスのしやすさは、ビジネスに関連する手続きのや規制、契約や納税、財産の保護といった指標を判断軸としていることから、国のイデオロギーとは必ずしも相関しない、ということが言えそうです。

▽カントリーリスクの視点

カントリーリスクという視点があります。
カントリーリスクとは、国の政治や経済、社会あるいは災害といった視点からみたリスクのことを言います。
政治では、中国による香港への規制強化をはじめ、2月1日にはミャンマーで起きた軍のクーデターがいまだ解決の糸口が見つからないまま現在も進行中です。
経済では、1997年に起きたアジア通貨危機がありました。
社会では、これも新疆ウイグル自治区での強制労働に係る輸入停止措置が、翻って中国国内での不買運動へと繋がり、企業への少なからぬ影響を与えています。
災害では、いまは海外よりも日本国内のほうが高リスクなのかもしれませんが、過去にはタイのチャオプラヤー川の洪水によるサプライチェーンの麻痺といったことがありました。
海外でのビジネスを考えた場合、これら「国」特有のリスクということを考えることも必要です。

▽結論

さて、ここまでダラダラとイデオロギーのことや統計的なこと、またカントリーリスクについて述べてきましたが、結局はこうしたリスクをすべて事前に把握することなど到底できるはずもありません。
であるならば、少なくとも選ぶ道は「後悔が少ない選択」をすることが重要である、という当たり前の結論に帰結します。
その国のことが好き。
事業そのものが好き。
文化が好き。
人が好き。
理由は様々でしょうが、好きなことを仕事にできる喜びが一番大切なのではないかと思っています。

▽おわりに

私は日本でしか暮らしたことがなく、また無党派な両親に育てられたため、政治的な思想とは無縁でした。こうしたことよりも、自分自身のアイデンティティの確立に悩んだ10代だったように思います。だから、民主主義が良いのか、社会主義が良いのかの議論を展開することはできません。
人は群れる生き物であり、国家という大きな群れを先人たちが構成してきました。集団を統制するためにはルールが必要であり、また自分たちの群れを他の群れから守るためにイデオロギーがつくり上げられてきたのだと思います。
生まれる場所を選ぶことができない私たちは、自然的・人的・教育的な環境に大きな影響を成育すると理解しています。井の中の蛙の井は、大きければ大きいほど、大海を知る必要はないのかもしれません。ただ一つ言えるのは、自分の生きる道の選択は自らがするのが生き物本来の姿だと思っています。
2021.07.04 阿部 勇司